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糖尿病の3大合併症その2-網膜症について– 【医師が解説】
はじめに
前回のブログ「➡️糖尿病の3大合併症その1–神経障害について–」では、糖尿病神経障害について解説しました。神経障害は比較的早い段階から起こりやすい合併症で、「しびれ」「感覚低下」「足の傷に気づきにくくなる」など、日常生活に大きく関わる合併症です。一方で、早期発見・早期治療によって進行を抑えられる可能性があるため、血糖コントロールを適切に行い、定期的に足や神経の状態を確認することがとても重要であるとお伝えいたしました。
今回の「その2」では、糖尿病の3大合併症「し・め・じ」の2番目「め」の糖尿病網膜症について詳しく説明します。
糖尿病網膜症は、日本における失明原因の上位を占める病気です。しかし初期には自覚症状がほとんどなく、「見えているから大丈夫」と思っている間に進行してしまうことがあります。
その一方で、早期発見・早期治療によって視力を守れる可能性が高い病気でもあります。
この記事では、できるだけ分かりやすく、糖尿病網膜症の病因、症状、検査、診断、そして治療について解説します。

1. 糖尿病網膜症とは?
糖尿病網膜症とは、糖尿病による高血糖の影響で、目の奥にある「網膜」の血管が傷つく病気です。網膜とは、カメラでいう「フィルム」にあたる部分であるため、目から入った光を感じ取り、映像として脳に伝える重要な役割を担っています。
高血糖の状態が長期間続くと、網膜の細い血管が徐々にダメージを受け、出血やむくみを起こします。進行すると視力低下や失明につながることがあるため早期の予防が重要です。

2. 糖尿病網膜症の病因(なぜ起こるのか)
糖尿病網膜症の最大の原因は、長期間続く高血糖です。血液中の糖が多い状態が続くと、血管の内側が傷つきます。特に網膜には非常に細い血管が多く存在するため、その影響を受けやすいとされています。
傷ついてしまった血管では次のような変化が起こります。
- 血管がもろくなる
- 血液が漏れる
- 血管が詰まる
その結果、周囲の組織が酸素・栄養不足になってしまい、それを補うために「新生血管(しんせいけっかん)」という異常な血管が作られます。この新生血管ですが、正常な血管と比較して非常にもろく、破れやすいという困った特徴を持ちます。そして新生血管が破れてしまい出血すると、急激な視力低下を起こすことがあります。

3. 糖尿病網膜症の症状
糖尿病網膜症の怖い点は、初期にはほとんど症状がないことです。
- 見え方は普通
- 痛みもない
- 日常生活に支障がない
このため、眼科受診をしないまま病状が進行してしまうケースが少なくありません。
しかし、病状が進行すると次のような症状が出現します。
- 視界がぼやける
- 黒い点が飛んで見える(飛蚊症)
- 急に見えにくくなる
- 視野が欠ける
- 失明
※「飛蚊症(ひぶんしょう)」とは、黒い虫や糸くずのようなものが視界に浮かんで見える症状です。
これらの症状が突然出た場合には、眼の中で出血している可能性もあります。

4. 糖尿病網膜症の検査
網膜症の検査・評価は全て眼科で行います。
- 視力検査:視力低下の有無を確認します。
- 眼底検査:糖尿病網膜症で最も重要な検査です。瞳孔を広げて目の奥の網膜や血管を観察します。自覚症状がなくても異常を発見できるため、定期検査が非常に重要です。
- OCT検査:網膜の断面を詳しく見ることができる検査です。
- 蛍光眼底造影検査:腕の血管から造影剤を入れて、網膜の血流状態を撮影する検査です。血流が悪い部分や、新生血管の有無を詳しく評価できるため必要に応じて行われます。

5. 糖尿病網膜症の診断
糖尿病網膜症は、進行度によって大きく3段階に分類されます。
単純網膜症
最も初期の段階です。網膜に「小さな出血」や「軽度の血管異常」などが見られます。多くの場合、自覚症状はありません。この段階で血糖コントロールを改善することで、進行を抑えられる可能性があります。
増殖前網膜症
網膜の血流障害が進行した状態です。網膜の血管閉塞や酸素不足が目立つようになります。放置すると次の段階へ進行しやすくなります。
増殖網膜症
最も進行した状態です。新生血管が形成され、大きな出血を起こす危険があります。さらに、硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)や網膜剥離などを起こすことがあり失明のリスクがあります。

6. 糖尿病網膜症の治療
糖尿病網膜症を悪化させる要因として、HbA1c高値(血糖コントロール不良)、糖尿病罹病期間が長い、喫煙、高血圧、脂質異常症などが挙げられます。特にHbA1cが高い状態が続くと、網膜症の進行リスクは大きく上昇します。そのためこれらのリスクに一つずつ介入していく必要があります。しかし、最も重要なのは血糖コントロールです。ただし、急激に血糖を下げると、一時的に網膜症が悪化することもあるため、医師の管理のもとで治療を行うことが重要です。禁煙を行い、血圧や脂質異常症などのコントロールも開始いたします(生活習慣の改善、栄養指導、服薬治療など)。
網膜症それ自体の治療は眼科で行います。レーザー治療や抗VEGF薬硝子体注射、硝子体手術などは病気の進行状況によって方針が異なります。

まとめ
糖尿病網膜症は、糖尿病によって目の血管が傷つき、視力低下や失明につながる病気です。
しかし、血糖コントロール(最も重要!)、定期的な眼科検査・早期治療によって、視力を守れる可能性が高まります。特に初期には症状がほとんどないため、「見えているから大丈夫」と自己判断しないことが大切です。糖尿病がある方は最低でも1年に1度の眼科受診を行い、適切な評価と治療を行うことが重要です。
当院では、糖尿病治療だけでなく、合併症予防にも力を入れています。HbA1c管理、生活習慣改善、必要時の専門医連携を行い、患者さん一人ひとりに合わせた治療を提案しています。
- 最近健康診断で血糖値を指摘された
- HbA1cが高いと言われた
- 糖尿病を長期間放置している
- 1年以上眼科を受診していない
このような方は、ぜひ一度ご相談ください。早期発見・早期治療が、将来の視力を守る大きな一歩になります。
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筆者 井上光子(副院長)
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医
内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医(領域指導医)
武蔵小金井みどりクリニック
糖尿病内科・内分泌内科・内科



